双対空間
この記事では、
- $V$: n次元ベクトル空間*1
- $V^{*}$: Vの双対空間
- $\mathbb{R}^{n}$: n次元実数ベクトル空間
- $E = \{e_{i}\}_{i=1 \dots n}$: $\mathbb{R}^{n}$の自然な基底
表現ベクトル
$V$と$\mathbb{R}^{n}$は同型である。 そのため、$V$の元に$\mathbb{R}$の元の表示$(a^{1}, \dots , a^{n})$を対応させることができる。
$V$と$\mathbb{R}^{n}$が同型であることの証明
$W = \{w_{i}\}_{i=1 \dots n}$を$V$の基底とする。
$x \in V$は基底を用いて、
$$ x = a^{i}w_{i} $$
と表せる。
写像$\pi_{W}: V \to \mathbb{R}^{n}$を、
$$ \pi_{W}(a^{i}w_{i}) = a^{i}e_{i} $$
で定める。すると、$\pi_{W}$は同型写像となる。
$\pi_{W}$が同型写像であることの証明
- 加法を保つ
$$ \begin{aligned} \pi_{W}(a^{i}w_{i}+b^{i}w_{i}) &= \pi_{W}( (a^{i}+b^{i})w_{i}) \\ &= (a^{i}+b^{i})e_{i} \\ &= a^{i}e_{i} + b^{i}e_{i} \end{aligned} $$
- スカラー倍を保つ
$$ \begin{aligned} \pi_{W}(c(a^{i}w_{i})) &= \pi_{W}( (ca^{i})w_{i}) \\ &= (ca^{i})e_{i} \\ &= c(a^{i}e_{i}) \end{aligned} $$
$\pi_{W}$が全単射であることは明らかなので、$\pi_{W}$は同型写像である。
表現ベクトル
このように、$V$の基底$W$から同型写像$\pi_{W}: V \to \mathbb{R}^{n}$が自然に導かれる。 $V$の元$x$に対し$\pi_{W}$によって得られる$\mathbb{R}^{n}$の元を、$W$が導く$x$の表現ベクトルということにする。
表現ベクトルから導かれる内積
表現ベクトルは数ベクトルなので、自然な内積がある。これを$V$の内積とみたものを、$W$が導く$V$の内積ということにし、$<,>_{W}$で表す。
すなわち、$x, y \in V$について、
$$ <x, y>_{W} := <\pi_{W}(x), \pi_{W}(y)> $$
双対空間
$V$の線型汎函数全体の集合を$V$の双対空間といい、$V^{*}$と書く。
線型汎函数
ベクトル空間の元を係数体に写す線形写像を、線型汎函数という。
例えば、
$$ \begin{aligned} &f: \mathbb{R}^{n} \to \mathbb{R} \ &st. a^{i}e_{i} \mapsto a^{1} \end{aligned} $$
とか。
双対空間がベクトル空間であることの証明
$V^{*}$上の演算の定義
$x \in V$、$f, g \in V^{*}$について、
加法 $$ (f+g)(x) = f(x) + g(x) $$
スカラー倍 $$ (af)(x) = af(x) $$
$V^{*}$がベクトル空間であることの証明
$x, y \in V$、$f, g \in V^{*}$をとる。
$$ \begin{aligned} (af+bg)(px+qy) &= (af)(px+qy)+(bg)(px+qy) \\ &= af(px+qy)+bg(px+qy) \\ &= apf(x) + aqf(y) + bpf(x) + bqf(y) \\ &= p(af(x)+bg(x)) + q(af(y)+bg(y)) \\ &= p( (af)(x)+(bg)(x) ) + q( (af)(y)+(bg)(y) ) \\ &= p(af+bg)(x) + q(af+bg)(y) \end{aligned} $$
$V$と$V^{*}$が同型であることの証明
ベクトル空間$V$をそのまま扱うのは大変なので、$\mathbb{R}^{n}$で話を進める。$V$と$\mathbb{R}^{n}$が同型であることは示したので、$\mathbb{R}^{n}$で成立したことは、$V$でも成立することが分かる。
例えば、$V^{*}$と$\mathbb{R}^{n*}$は同型である。一応証明すると、
$V^{*}$と$\mathbb{R}^{n*}$が同型であることの証明
写像$\pi^{*}_{W}: V^{*} \to \mathbb{R}^{n*}$を、
$$ \pi^{*}_{W}(f) = f \circ \pi^{-1}_{W} $$
で定める。$f$と$\pi_{W}$は共に線形なので、$f \circ \pi_{W}$は$\mathbb{R}^{n*}$の元になっている(well-defined)。
準同型であることは明らか。
$$ \pi^{*-1}_{W}(v) = v \circ \pi_{W} $$
という逆写像が存在するので、$\pi^{*}_{W}$は全単射。
よって、$\pi^{*}_{W}$は同型写像である。
$\mathbb{R}^{n}$と$\mathbb{R}^{n*}$が同型であることの証明
$f, g \in \mathbb{R}^{n*}$について、$f, g$は線形なので、
$$ \forall i = 1 \dots n f(e_{i}) = g(e_{i}) \Rightarrow f = g $$
写像$\phi: \mathbb{R}^{n*} \to \mathbb{R}^{n}$を、
$$ \phi(f) = f(e_{i})e_{i} $$
で定義する。
$\phi$が同型写像であることの証明
$f \in \mathbb{R}^{n*}$に対して、$v = \phi(f)$とすれば、
$$ \forall i = 1 \dots n ve_{i} = f(e_{i}) $$
より、$f(x) = vx$が成り立つので、準同型写像であることは明らか。
また、$\phi$が単射であることも明らか。数ベクトルの内積は線形なので、全射も明らか。
よって、$\phi$は同型写像である。
以上の議論により、
$$ V \overset{\pi_{W}}{\cong} \mathbb{R}^{n} \overset{\phi}{\cong} \mathbb{R}^{n*} \overset{\pi^{*}_{W}}{\cong} V^{*} $$
*1:数ベクトルとは限らないことに注意。つまり、$(a_{1}, \dots, a_{n})$とかではない。