歳差運動による春分点の移動

地球の地軸は23.4度傾いているということはよく知られているが、その傾きは歳差運動や章動により日々変化している。そして、地軸の向きが変化すると春分点が移動する。この記事では、地軸の向きと春分点の方向の関係を見ていく。

春分点とは

まずは、春分点という言葉の定義を確認する。wikipediaによると、

春分点(しゅんぶんてん、英: vernal equinox)とは、黄道天の赤道との2つの交点(分点)のうち、黄道が南から北へ交わる方の点(昇交点)のこと。

とのこと。しかし、黄道や赤道は地球から見た宇宙なので、天動説風の定義である。そこで、これを地動説風に言い換えると(正確ではないが)、

春分の日に地球から見て太陽がある方向(にある天球上の点)。

となる。

春分の日の特徴

これ以降は、春分点の位置を二つ目の定義方法に従って考えていく。太陽が動かないものとすると、春分点の位置は、春分の日の地球の位置で決まる。春分の日の特徴を考えて、その特徴を満たす位置を求めるというやり方で、春分の日の地球の位置を割り出す。

春分の日の最も顕著な特徴は、夜と昼の時間が同じことだ。これは、

地球に対する太陽の位置ベクトルを法線ベクトルとする、地球中心を通る平面に、地軸が含まれる。

と言い換えられる。と言ってもわかりにくいから、図で見てみる。

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この図の真ん中の透明球が地球を表している。太陽(sun)からの光が届く範囲は、図の中の平面の上側であるのは明らかだろう。この平面が、"地球に対する太陽の位置ベクトルを法線ベクトルとする、地球中心を通る平面"だ。見てわかる通り、この平面に地軸(axis)が含まれる時、あらゆる地点において昼夜の長さが同じになる。図を見れば明らかなように、この平面内で地軸がどう動いても、この時点が春分の日であることに変わりはない。そして、このことと、このようにして得られる全ての平面にz軸に平行な直線が含まれることから、地軸のz軸方向の傾きは、無視して良いことがわかる。変な座標軸があるけど、ここでは無視して、後の説明に使うものなので。。

歳差運動による春分の日の変化

次に、地軸が変化することで春分の日がどう影響を受けるか見ていく。

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図中の白丸は地球、黒丸は太陽、楕円は地球軌道を表している。そして、外側の円(以降、外円という)は、太陽を中心として地球軌道に接するような円である。図には二つ地球が描いてあるが、上側の白丸が春分の日、下側が秋分の日を表している(後で説明)。太陽から春分の日の地球の位置へ伸ばした半直線が外円と交わる地点に、地球の太陽に対する位置ベクトルを法線ベクトルとする平面をとる(図中の垂直平面)。平面上には、交点(丸)、外円の接線(tangent)(実直線)、およびz軸に平行で交点を通る直線(点線)を書き込む。その平面を倒して水平にすると、先ほどの図が得られたとする。つまり、地軸の方向が図のようであったとする。(再掲する)

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ここから歳差運動で地軸がずれ、以下の図のようになったとする。

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このとき、この時点は春分の日ではなくなるのだが、では、春分の日はどこに変わったのだろうか。それをこれから見ていく。先ほどの言ったように、地軸のz軸成分は無視できるので、以降は地軸をxy平面に投影したもの(projection)を考えていく。

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xy平面は、地球の軌道を含む平面(黄道面)なので、地球の軌道上に地軸を書き込むことができる。

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春分の日の特徴は、

地球に対する太陽の位置ベクトルを法線ベクトルとする、地球中心を通る平面に、地軸が含まれる。

だったが、これは、

地軸の投影直線と太陽と地球を結ぶ直線が垂直である。

と言い換えることができる。また、円の性質として、接線と、中心と接点を結ぶ直線は直交するので、地軸の投影直線を平行移動(translation)させた直線と外円が接する場所(point of tangency)と、太陽を結ぶ直線と、地球軌道の交点に地球があるときに、春分の日になることがわかる。もう、言葉で説明しても訳がわからないと思うので、上の図を見て頑張って考えて。

このようにして、地軸の移動と春分の日の移動が関係しているのだ。

春分の日秋分の日

上の図を見て、春分の日が二つあるじゃないかと思ったと思う。もちろんそんなことはなく、実は、片方は秋分の日を表しているのだ。先ほど、春分の日の特徴として、昼の長さと夜の長さが同じことを使ったが、これは当然秋分の日にも当てはまる。春分点wikipediaの定義は、

春分点(しゅんぶんてん、英: vernal equinox)とは、黄道天の赤道との2つの交点(分点)のうち、黄道が南から北へ交わる方の点(昇交点)のこと。

となっているが、僕らは"南から北へ"という条件を使っていないのだ。これが"北から南へ"となるのが秋分の日という訳だ。

この定義を使うために、まずは、この記事での南北の定義を与える。

右手系における、地球の自転の回転ベクトルの方向。南はその反対方向。

面倒な定義をしたが、ようするに、地球の自転が反時計回りに見える方を北とするというだけのことだ。これは実生活で何気なく用いている"北"という言葉の語感と一致する。北極がある方が北なのだ(いや、北だから北極なんだろう?)。

そして、地球軌道面の北側より南側の方が地軸と太陽が離れているとき太陽は北側にあるし、逆ならば太陽は南側にある。つまり、上の図でどちらが春分でどちらが秋分なのかは、地軸の傾き方や軌道面の方向に依存するので、定めることができない。

これで終わるのは物足りないので、よくみる下のような図について説明を加えて終わりにしよう。

これは、国立天文台から借りたものだ。この図では地軸の傾きや軌道面の向き(自転方向)、公転方向が明示してあるので、春分の日秋分の日の見分けがつく。図で見て変わるように、冬至の日には太陽は最も南にあり、春分を経て夏至の日になると最も北にある。そして、秋分を経て冬至に戻る。そして、春分の日こそ、太陽が"南から北"に移る日だ。